血圧計の液晶画面に浮かぶ「144」と「85」という数字を、ぼんやりと眺める。
良くも悪くもない、いわば「中の出来」といったところか。
血圧のわずかな変動に一喜一憂するのも、
70代という年齢の特権であり、哀しい習性かもしれない。
私は小さく息を吐き、首から愛用のカメラを下げて、土曜の朝活へと家を出た。
都内からこの少し不便な田舎町に移り住んで、もう6年になる。
越してきた当初は驚いたものだ。
早朝の交差点、青信号なのに猛スピードで突っ込んでくる軽自動車。
黄色はためらいなく、赤ですら涼しい顔で通り抜けていく。
今日もまた、私が歩き出そうとした目の前を、
一台の軽自動車が悪びれもせずにすっ飛んでいった。
昔なら顔を紅潮させて腹を立てていたはずだが、
今では「ああ、またか」と、やり過ごす術を身につけてしまった。
昼間になれば、今度は同世代の高齢者マークをつけた車が、
横断歩道も一時停止も無いかのように通り過ぎる。
田舎の朝活とは、車との知恵比べであり、安全な裏道を探す小さな冒険なのだ。
気を取り直して、学校の脇を抜け、小さな川沿いの小道を歩く。
人影はない。土曜日だからか、それとも皆まだ夢の中なのか。
冬になれば、大きなレンズを抱えて野鳥を追う里山も、夏はめっきり静かになる。
いや、正確には静かではない。ガビチョウやオナガといった外来種の甲高い声が、
むせ返るような緑の中に響き渡っている。
スズメやシジュウカラの控えめな声をかき消すように、
最後はカラスが「カァ、カァ」とけたたましく鳴いて、朝の空気を震わせた。
里山を抜け、春の花が終わった道を歩いていると、
路肩に無数の梅の実が転がっているのに気がついた。
誰にも拾われることなく、土に還っていく青い実。
この土地の人にとっては、もう厄介者でしかないのだろうか。
その丸い実の無骨な姿に、ふと自分たち老夫婦の姿を重ねてしまい、
少しだけ胸がチクリとした。
6.5キロ、一時間半の道のり。ちょうどいい疲れが足の裏にある。
今日は基地のフェンス越しに外来機を見ることはできなかったが、
午後のサイクリングの楽しみに取っておくとしよう。妻と老犬の待つ我が家へ、
私はまたゆっくりと歩き出した。


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