6/06/2026

落ちた梅の実と、土曜の朝の散歩道

血圧計の液晶画面に浮かぶ「144」と「85」という数字を、ぼんやりと眺める。

良くも悪くもない、いわば「中の出来」といったところか。

血圧のわずかな変動に一喜一憂するのも、

70代という年齢の特権であり、哀しい習性かもしれない。

私は小さく息を吐き、首から愛用のカメラを下げて、土曜の朝活へと家を出た。

都内からこの少し不便な田舎町に移り住んで、もう6年になる。

越してきた当初は驚いたものだ。

早朝の交差点、青信号なのに猛スピードで突っ込んでくる軽自動車。

黄色はためらいなく、赤ですら涼しい顔で通り抜けていく。

今日もまた、私が歩き出そうとした目の前を、


一台の軽自動車が悪びれもせずにすっ飛んでいった。

昔なら顔を紅潮させて腹を立てていたはずだが、

今では「ああ、またか」と、やり過ごす術を身につけてしまった。

昼間になれば、今度は同世代の高齢者マークをつけた車が、

横断歩道も一時停止も無いかのように通り過ぎる。

田舎の朝活とは、車との知恵比べであり、安全な裏道を探す小さな冒険なのだ。


気を取り直して、学校の脇を抜け、小さな川沿いの小道を歩く。

人影はない。土曜日だからか、それとも皆まだ夢の中なのか。

冬になれば、大きなレンズを抱えて野鳥を追う里山も、夏はめっきり静かになる。

いや、正確には静かではない。ガビチョウやオナガといった外来種の甲高い声が、

むせ返るような緑の中に響き渡っている。

スズメやシジュウカラの控えめな声をかき消すように、

最後はカラスが「カァ、カァ」とけたたましく鳴いて、朝の空気を震わせた。

里山を抜け、春の花が終わった道を歩いていると、

路肩に無数の梅の実が転がっているのに気がついた。


誰にも拾われることなく、土に還っていく青い実。

この土地の人にとっては、もう厄介者でしかないのだろうか。

その丸い実の無骨な姿に、ふと自分たち老夫婦の姿を重ねてしまい、

少しだけ胸がチクリとした。



6.5キロ、一時間半の道のり。ちょうどいい疲れが足の裏にある。

今日は基地のフェンス越しに外来機を見ることはできなかったが、

午後のサイクリングの楽しみに取っておくとしよう。妻と老犬の待つ我が家へ、

私はまたゆっくりと歩き出した。

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