6/20/2026

雨音と、15万枚の記憶の迷路


今日は一日中、雨だった。東京の外れで婆さんと「すみっこ暮らし」の貧乏生活を送る私にとって、外出が叶わない雨の日は、どうにも調子が狂う。まるで世界から取り残されたかのように、静けさが老体をじわじわと虐めてくるのだ。

今日1日、我が家の玄関ドアが開く音は一度も鳴らなかった。婆さんはどこかでうたた寝でもしているのだろう。足元では、16歳になる老犬のノエが、丸まったまま静かな寝息を立てている。

では、この引きこもりの一日、私が何をしていたかといえば、ひたすらパソコンと睨めっこである。ボケ防止にとファインダーを覗き、撮り溜めた写真データが、気づけば「Adobe Lightroom Classic」に15万枚以上も膨れ上がっていた。塵も積もればなんとやら、これだけ溜まればパソコンの動きも、私の老体のごとく鈍くなるというものだ。

そこで一念発起、「teekesselchen」なる舌を噛みそうな名前のプラグインを使い、重複ファイルを削除しようと試みた。ネットの海を漂いながら、見よう見まねで使い方を調べてみる。しかし、これがどうにも上手くいかない。消しては元に戻し、戻しては消しの繰り返し。デジタル相手の終わりのない千日手である。

気づけば窓の外は暗くなり、無情にも一日があっという間に過ぎ去ってしまった。結局、疲労感と乾いた目だけが残り、何もできない、何もやっていない一日だった。「ボケまい」と頑張るつもりが、かえって知恵熱が出そうだ。

だが、こんな日があってもいい。何も生まなかった一日も、老い先短い人生の愛おしい余白である。明日の朝の天気予報は、ありがたいことに曇り。あの重たい空気を切り裂くような朝の空気を吸い込み、再びファインダー越しに世界を覗き見るとしよう。予報を信じて、いつもの時間に起きることにする。ノエ、明日も付き合ってくれるかい?

さあ、今日はお終い。そろそろお休みの時間だ。


The Sound of Rain and a Labyrinth of 150,000 Memories

It rained all day today. For me, living a modest life with my wife in the outskirts of Tokyo, a rainy day when I can't go out somehow throws me off balance. It's as if I've been left behind by the world, and the silence slowly torments my aging body.

Not once did the sound of the front door opening echo through our house today. My wife must be dozing off somewhere. At my feet, our 16-year-old dog, Noe, is curled up, breathing softly in her sleep.

So, what was I doing on this day of seclusion? Staring blankly at my computer screen. The photos I had taken to keep my mind sharp had swelled to over 150,000 in Adobe Lightroom Classic. Just like my old body, the computer had grown sluggish.

Determined, I tried using a plugin with a tongue-twisting name, 'teekesselchen', to delete duplicate files. I surfed the web, mimicking the instructions. But nothing worked. I deleted, restored, and deleted again—an endless stalemate with the digital world.

Before I knew it, the window had grown dark, and the day had mercilessly slipped away. In the end, all that remained was fatigue and dry eyes; it was a day where I accomplished absolutely nothing. I thought, 'That's fine. A day that produced nothing is still a precious blank space in my remaining life.'

Thankfully, the forecast for tomorrow morning is cloudy. I'll wake up at my usual time, trusting the forecast. Noe, will you keep me company again tomorrow? Well, that's it for today. It's time to rest.

6/19/2026

塩分とカルガモと、少し短い朝の道


「しまった」と目を覚ますと、時計の針は4時35分を指していた。予定より5分遅れの起床。年をとると目覚めだけはやたらと早くなるものだが、たまにはこんな日もある。

出発前の恒例儀式、血圧測定の時間だ。腕帯を巻き、結果を見る。「上が145、下が77、心拍数66」。上が少し高い。原因は火を見るより明らかである。昨夜、婆さんの目を盗んでパリパリとかじってしまった、あの美味しい煎餅だ。「こんなにも塩分が血圧にダイレクトに影響するのか」と、誤魔化しのきかない自分の体の正直さに呆れつつ、そっとため息をついた。


気を取り直して、いざ出発。今日もお供のカメラは持たず、身軽な格好だ。ポケットにはスティックパン1個、アメ1個、そしてチョコ1個。まるで遠足に向かう小学生のようなおやつのラインナップに、我ながらクスッと笑ってしまう。今日は気分を変えて、いつものコースを時計の逆回りで歩いてみることにした。

The Price of Salty Crackers and a Lone Duck's Mo

少し歩くと、空き地で若者たちが数人たむろしているのが横目に入った。夏が近づくと増える光景だ。「おいおい、学校には行っているのかい?」と心の中で老婆心を覗かせるが、その前に彼らの親はどうしているのだろうと、少しばかり複雑な気持ちになる。


車の多い通りをやり過ごし、水源の方向へと足を向ける。すると、川沿いの道路脇で、金網に首を突っ込んでバタバタともがいている一羽のカルガモを見つけた。必死に逃げようとしているらしい。川の方へ目をやると、別のカルガモが二羽、涼しげに浮かんでいる。やがて首を突っ込んでいたカルガモがなんとか抜け出し、仲間に入ろうと勇んで川へ飛び立った。ところが、川に入った途端、その二羽から激しく追い回され、あわれにも弾き出されてしまったのだ。「お前さんも、いじめられっ子なのかい?」と、羽をすぼめたカルガモの背中に、思わず同情の声をかけてしまった。


川を下り、今度は横田基地の方向へ歩を進める。基地横の道から駐機場を覗き込むと、巨大なC5とC17がそれぞれ一機ずつ、朝の静寂の中で鈍い光を放ちながら鎮座していた。

歩き始めて4キロ。最近はどうにも疲れやすくなった。以前ならなんともなかった距離だが、今日はここらで一休みだ。普段は「1キロ12分」というペースを守っているが、今は無理をせず、スピードを落として距離も短めに切り上げることにしている。老いには逆らわず、上手に付き合っていくしかない。今日はこの辺で帰路につくことにした。約1時間ほどの、少し短い朝活であった。

家に帰り、温かいお茶をすすりながらパソコンに向かってブログを書き始めると、窓の外から「ホーホケキョ」と澄んだウグイスの囀りが聞こえてきた。久々に聞くその声は、疲れた体に心地よく染み渡る。ふと足元を見れば、愛犬のノエが安心しきったように静かな寝息を立てていた。婆さんの起きてくる気配を感じながら、不器用ながらも平穏な「今日」という一日が、また静かに幕を開けた。

6/17/2026

揺れない家と、煎餅への遠い道のり


今朝もまた、4時前に目が覚めてしまった。昨夜の地震の余韻が、老体から眠りを奪ったらしい。

思い返せば、23区のマンションで暮らしていた頃は、震度3もあれば船に乗っているようにゆらゆらと大きく揺れたものだ。しかし、この田舎へ疎開(移住)してきて6年。この家で揺れを感じたのは、昨日が初めてのことだった。どっしりと地に足をつけたこの家は、全然揺れが怖くない。頼もしい限りだが、その安心感とは裏腹に、夜中に「愛車が傷だらけになる」という悪夢を見てガバッと起きてしまったのだから、人間の心とは厄介なものである。


すっかり目が冴えてしまったので、4時少し前に日課の血圧測定。 「上138、下89、心拍数73」 うむ。目標数値にはあと一歩届かないが、徐々に下がってきている。夜な夜な大好物の煎餅を我慢している効果が、少しは出ているのだろう。実は、もし今日目標数値をクリアできたら、ご褒美に車を転がして飯能まで美味しい煎餅を買いに行こうと目論んでいたのだが……残念ながら、今日はお預けである。


気を取り直して、いつものおやつをポケットに忍ばせ、相棒のレークランドテリアと共に朝活へ出発した。 4時半頃、里山の向こうからゆっくりと太陽が顔を出す。駐機場に目をやると、C5が1機、C17が2機。今日は大型貨物機ばかりが、静かに羽を休めていた。


「今日も暑くなりそうだなぁ」 少しずつ白んでいく空を見上げ、ふうと息を吐いて今日の朝活は終了。

婆さんから7時の朝食の号令がかかるまでは、2階の自室に引き籠って、6時30分のラジオ体操と、こうして朝活日記を綴るのが日課だ。 さて、体操が終わったら、また1階の「日常」へと下りていくとしよう。明日は飯能へ行けることを祈って。

6/16/2026

横田基地の軍用機とトイカメラと、下がらない血圧


朝の4時に元気よくベッドから跳ね起きた!パソコンを立ち上げる面倒な儀式はすっ飛ばし、すぐさま出発の準備に取り掛かる。本日の最初のミッションは、大きく3回深呼吸をしてからの恒例の血圧測定だ。上は140、下は90、心拍数は77。昨日からほんのミクロの進歩である。それにしても、どう足掻いてもこの頑固な血圧は下がってくれないので、今日はヤケクソで煎餅でもドッサリ買って、日頃のストレスを発散してやろうかと考えた!


今日の頼もしい道連れは、トイカメラ、スティックパン1本、アメ1個、それにチョコレートが1個。いつものように基地の北側エンドを目指し、パシャパシャとシャッターを切りながら進む。駐機場には、ここしばらくお目にかかっていなかった光景が待っていた。何度見ても、あの機体の配置は「命」という漢字そのものにしか見えないのだ!C-5、C-17、KC-135、そして横田基地をねぐらとするC-130にCV-22。なんて壮観なメカニックの顔ぶれだろう!


私は歩みを進め、愛機キヤノン・パワーショットNの遊び心あふれる「トイカメラ」モードで、朝露に濡れた草花を写真に収めていく。やがて川沿いの道にぶつかり、帰途についた。梅雨時の雨で小川の水はすっかり泥濁りしており、当然ながら住人のカワセミたちの姿はどこにもない。


それでも、基地の向こう側に、頂をほんの少し白くお色直しした富士山が顔を出していた。最近ではめったにお目にかかれないご褒美だ!「今日は暑くなるぞ」と、私は独りごちた。


1時間30分、距離にして7キロメートル。カメラを片手にした、なんとも素晴らしい朝のパトロールであった!



6/15/2026

あの日の約束と、ふたたびの地へ

 


プロローグ:あの日の約束と、ふたたびの地へ

私にとって、パリの街を踏むのはこれが二度目になる。

初めてこの地を訪れたのは、北欧フィンランドでの仕事を終えた帰路のことだった。愛する花奈(かな)の誕生日プレゼントを手に入れるため、仕事の合間を縫うようにして立ち寄ったパリ。あの慌ただしくも、どこか誇らしげで胸が高鳴っていた時間が、昨日のことのように思い出される。

そして今回、私たちは再びこの芸術の都へと向かうことになった。 やはり今回も、年末の多忙を極める仕事の残務整理と格闘しながら、深夜便を利用して強行日程を組んだ、息つく暇もない旅である。

旅立ちの朝、まずは大切な家族である二頭の愛犬たちをバギーに乗せ、いつもの動物病院へと向かった。これから4泊4日、彼らにとってはお留守番という名の小さなお泊り修行が始まる。少し寂しそうな表情を後ろ髪に引き引かれながらも、私たちは我が家を後にした。

自由が丘から品川へ。そこからは「成田エクスプレス」の揺れに身を任せ、空港へとひた走る。

聖夜の予感と、深夜のテイクオフ

成田空港に到着したのは、すっかり日が落ちて静寂が広がり始めた頃だった。 機内に持ち込むための簡単な軽食を済ませ、私たちはしんと静まり返った空港ロビーを歩く。

その歩みの先で、鮮やかにきらめくクリスマスツリーのイルミネーションが、私たちの視界をパッと彩った。 「そうか、もうすぐクリスマスなのだ」

日常の忙しさに追われ、カレンダーの数字を追うだけの毎日から、一瞬にして特別な季節のただ中へと引き戻される。深夜11時前、冷たい夜空へと向かって飛び立つ飛行機は、私たちを乗せて静かに滑走路を滑り出し、闇の中へと消えていった。目指すは、早朝のパリである。

凍てつく早朝のパリと、人の温もり

長いフライトを終え、まだ薄暗く凍てつくような早朝のシャルル・ド・ゴール空港へ降り立つ。

市内への移動のために事前に手配していたのは、乗り合いの相乗りタクシーだった。見知らぬ土地での移動に少しの緊張を抱えながら車に乗り込むと、そこには偶然にも、フランス語を自在に操る一人の日本人女性が同乗していた。

言葉の壁に少し戸惑いかけたその時、彼女がとても自然に通訳を買って出てくれたのだ。 「本当に助かりました、ありがとうございます」

異国の地で出会った同胞の優しさに、どれほど救われたことだろう。おかげで何一つトラブルもなく、言葉の難を逃れて、スムーズに目的地までたどり着くことができた。旅先でのこういう偶然の出会いと温もりこそが、旅をより豊かなものにしてくれる。

車がホテルの前に止まったのは、まだ夜が明けるには遠い午前4時過ぎ。 今夜の宿は、パリ1区のチュイルリー庭園のほど近くに佇む「ウェスティン・パリ-ヴァンドーム」だ。

普段からこのホテルチェーンをよく利用していることもあり、多少の融通が利くという安心感からここを予約していた。 「荷物だけでも先に預かってもらおう」 そう思ってフロントへ向かうと、スタッフがにこやかに私たちを迎えてくれた。

そして、信じられないほど嬉しい言葉をかけてくれたのだ。 「幸いにも、お客様にご予約いただいたお部屋が、ただいま空いております。サービスで今すぐお使いいただけますので、どうぞお部屋でお体をお休めください」

長旅の疲れと冬の寒さで凝り固まった身体に、その温かい計らいが深く染み渡る。私たちは言葉に甘えてすぐに部屋に入り、静かに夜明けを待ちながら、贅沢な一時休息をとった。

黎明の散策:光を待つ歴史の街角

しばらく身体を休めた後、私たちはまだ夜が明けきらない、濃いブルーに包まれたパリの街へと歩き出した。 凛とした冬の空気が、眠気のある頬を心地よく刺激する。

ホテルを出て、まずはコンコルド広場へ。そこから静まり返ったチュイルリー庭園の木々の間を抜け、私たちはルーブル美術館の前へと向かった。

昼間の喧騒が嘘のように、人影のない静寂に満ちたルーブル。ガラスのピラミッドが淡い街灯の光を浴びて、神秘的に輝いている。私たちはこの美しい瞬間を永遠に留めておくように、時折カメラのシャッターを切り、写真撮影を挟みながらゆっくりと歩いた。

帰路は、かつて王族や貴族たちが行き交ったサン・トノレ通りを進む。ショーウィンドウがクリスマスの装飾で美しく彩られた通りを眺めていると、やがて視界が開け、ヴァンドーム広場へと導かれる。

そこには、ナポレオンがアウステルリッツ(オーステルリッツ)の戦いの勝利を記念して建てさせた、荘厳な記念柱(オベリスク)が静かにそびえ立っていた。常夜灯の明かりに照らされたそのシルエットを仰ぎ見ながら、私たちはパリの深い歴史の息吹を感じる。

この記念柱を目印にするようにして、私たちは心地よい疲労感とともに、温かい光が待つウェスティンホテルへと戻っていった。 パリの空がゆっくりと白み始める。私たちの「二度目のパリ」は、こうして静かに、しかし最高にロマンチックに幕を開けた。

続く