プロローグ:あの日の約束と、ふたたびの地へ
私にとって、パリの街を踏むのはこれが二度目になる。
初めてこの地を訪れたのは、北欧フィンランドでの仕事を終えた帰路のことだった。愛する花奈(かな)の誕生日プレゼントを手に入れるため、仕事の合間を縫うようにして立ち寄ったパリ。あの慌ただしくも、どこか誇らしげで胸が高鳴っていた時間が、昨日のことのように思い出される。
そして今回、私たちは再びこの芸術の都へと向かうことになった。 やはり今回も、年末の多忙を極める仕事の残務整理と格闘しながら、深夜便を利用して強行日程を組んだ、息つく暇もない旅である。
旅立ちの朝、まずは大切な家族である二頭の愛犬たちをバギーに乗せ、いつもの動物病院へと向かった。これから4泊4日、彼らにとってはお留守番という名の小さなお泊り修行が始まる。少し寂しそうな表情を後ろ髪に引き引かれながらも、私たちは我が家を後にした。
自由が丘から品川へ。そこからは「成田エクスプレス」の揺れに身を任せ、空港へとひた走る。
聖夜の予感と、深夜のテイクオフ
成田空港に到着したのは、すっかり日が落ちて静寂が広がり始めた頃だった。 機内に持ち込むための簡単な軽食を済ませ、私たちはしんと静まり返った空港ロビーを歩く。
その歩みの先で、鮮やかにきらめくクリスマスツリーのイルミネーションが、私たちの視界をパッと彩った。 「そうか、もうすぐクリスマスなのだ」
日常の忙しさに追われ、カレンダーの数字を追うだけの毎日から、一瞬にして特別な季節のただ中へと引き戻される。深夜11時前、冷たい夜空へと向かって飛び立つ飛行機は、私たちを乗せて静かに滑走路を滑り出し、闇の中へと消えていった。目指すは、早朝のパリである。
凍てつく早朝のパリと、人の温もり
長いフライトを終え、まだ薄暗く凍てつくような早朝のシャルル・ド・ゴール空港へ降り立つ。
市内への移動のために事前に手配していたのは、乗り合いの相乗りタクシーだった。見知らぬ土地での移動に少しの緊張を抱えながら車に乗り込むと、そこには偶然にも、フランス語を自在に操る一人の日本人女性が同乗していた。
言葉の壁に少し戸惑いかけたその時、彼女がとても自然に通訳を買って出てくれたのだ。 「本当に助かりました、ありがとうございます」
異国の地で出会った同胞の優しさに、どれほど救われたことだろう。おかげで何一つトラブルもなく、言葉の難を逃れて、スムーズに目的地までたどり着くことができた。旅先でのこういう偶然の出会いと温もりこそが、旅をより豊かなものにしてくれる。
車がホテルの前に止まったのは、まだ夜が明けるには遠い午前4時過ぎ。 今夜の宿は、パリ1区のチュイルリー庭園のほど近くに佇む「ウェスティン・パリ-ヴァンドーム」だ。
普段からこのホテルチェーンをよく利用していることもあり、多少の融通が利くという安心感からここを予約していた。 「荷物だけでも先に預かってもらおう」 そう思ってフロントへ向かうと、スタッフがにこやかに私たちを迎えてくれた。
そして、信じられないほど嬉しい言葉をかけてくれたのだ。 「幸いにも、お客様にご予約いただいたお部屋が、ただいま空いております。サービスで今すぐお使いいただけますので、どうぞお部屋でお体をお休めください」
長旅の疲れと冬の寒さで凝り固まった身体に、その温かい計らいが深く染み渡る。私たちは言葉に甘えてすぐに部屋に入り、静かに夜明けを待ちながら、贅沢な一時休息をとった。
黎明の散策:光を待つ歴史の街角
しばらく身体を休めた後、私たちはまだ夜が明けきらない、濃いブルーに包まれたパリの街へと歩き出した。 凛とした冬の空気が、眠気のある頬を心地よく刺激する。
ホテルを出て、まずはコンコルド広場へ。そこから静まり返ったチュイルリー庭園の木々の間を抜け、私たちはルーブル美術館の前へと向かった。
昼間の喧騒が嘘のように、人影のない静寂に満ちたルーブル。ガラスのピラミッドが淡い街灯の光を浴びて、神秘的に輝いている。私たちはこの美しい瞬間を永遠に留めておくように、時折カメラのシャッターを切り、写真撮影を挟みながらゆっくりと歩いた。
帰路は、かつて王族や貴族たちが行き交ったサン・トノレ通りを進む。ショーウィンドウがクリスマスの装飾で美しく彩られた通りを眺めていると、やがて視界が開け、ヴァンドーム広場へと導かれる。
そこには、ナポレオンがアウステルリッツ(オーステルリッツ)の戦いの勝利を記念して建てさせた、荘厳な記念柱(オベリスク)が静かにそびえ立っていた。常夜灯の明かりに照らされたそのシルエットを仰ぎ見ながら、私たちはパリの深い歴史の息吹を感じる。
この記念柱を目印にするようにして、私たちは心地よい疲労感とともに、温かい光が待つウェスティンホテルへと戻っていった。 パリの空がゆっくりと白み始める。私たちの「二度目のパリ」は、こうして静かに、しかし最高にロマンチックに幕を開けた。
続く













